アトピー性皮膚炎の治療

かなり膨大な情報量ですが、少し我慢して、全文を読み通してください。 そして、ここに書かれてあることを少しでも実行されると、必ず何らかの改善が体験できるはずです。たとえ完治しなくても、8割近くは改善されます。以下、アトピー性皮膚炎をアトピーと省略させていただきます。

ここ20年ほどのあいだに、アトピーの治療がずいぶんと変わりました。ステロイド外用薬、保湿外用薬、抗ヒスタミン剤の三つだけで何とか対処してきたのが、下記の薬品の出現によって治療の幅が非常に広がってきたのです。特に重症の患者さんには、デュピルマブやJAK阻害薬は助けになっています。(デュピルマブやJAK阻害薬については、プロトピックのページで簡単に説明しています)。

1999年 免疫抑制剤のタクロリムス(プロトピック)軟膏の承認
2018年 生物製剤のデュピルマブ(デュピクセント)注射の承認
2020年  JAK阻害薬のデルゴシチニブ(コレクチム)軟膏の承認
2020年 JAK阻害薬のバリシチニブ(オルミエント)(錠剤)の承認

デュピルマブ、バリシチニブは使われ始めてから日が浅く、しかも、かなり高額な治療費がかかるため、まだ一般的ではありません。タクロリムス(プロトピック)軟膏は20年の歴史があり、安全性もほぼ確立されていますので、ステロイド軟膏と並んで、しばしば処方されています。しかし、それでもアトピー治療の主役はいまだにステロイド軟膏であり、多くの患者さんの関心は「脱ステロイド」です。

*アトピー治療における「脱ステロイド」と「ステロイド使用」について

1999年にタクロリムス(プロトピック)、2018年にデュピルマブ(デュピクセント)、2020年にデルゴシチニブ(コレクチム)が承認され、アトピーの治療がここ20年にずいぶんと変わってきています。しかし、主流は今でもやはりステロイド軟膏です。これをいかに使いこなすかが、アトピー治療の基本となります。
 
そして、ほとんどの患者さんの願いは、脱ステロイドです。しかし、結論から先に言うと、懸命に脱ステロイドを目指すよりも、むしろうまくステロイドを使いこなす人の方が、結果的には速やかにステロイドを卒業できるのです。

次の患者さんからのメイルに、アトピー治療の現状が、見事に濃縮されています。

「昨年の8月までは大学病院でキンダベート(顔)、リドメックス1・ワセリン2の混合(体)、アンテベート1・ワセリン2の混合(体のひどいところ)を処方されていたのですが、 ただ渡されるだけの先が見えない状態が何年も続いていたこともあり、漢方の先生に相談し脱ステロイドを試みたものの、半年たった現在行き詰まっています」

つまり、先が見えないのです。

しかし、あきらめないでください。ここに書かれている食事療法、サプリメント、解毒方法、ちょっとした生活習慣の工夫で、必ず先は見えてきます。

そして、脱ステロイドに固執しなくても、自然にステロイド軟膏を使わずにすむようになってくるのです。

また、ここに一つの問題点があります。それは、患者さんたちの「アトピー性皮膚炎は脱ステロイドしなければ治らない」という、非医学的な思い込みです。 これは、ほとんど妄執となってしまい、何が何でも脱ステロイドしなければいけないという、一種の強迫観念にまでなってしまっているのです。 しかし、これには何の医学的根拠もありません。

「脱ステロイドをするからアトピーが治るのではなく、体の中から改善されていくうちに、自然に脱ステロイドが可能になる」

というのが正しいとらえ方なのです。 脱ステロイドへの倒錯とまでいえる奇妙な妄執がはびこっているのは、患者さんを「先が見えない」状態にしておいたままの、わたしたち医師の責任でもあるわけです。

*アトピーの最大の関心事はステロイド

アトピーの患者さんの最大の関心事はステロイドです。この質問で始まり、この質問で終わるといっても過言ではありません。

したがって、ここではっきりしておきましょう。“ステロイドはアトピーの味方です。”

こういうと、なーんだ、ドクター牧瀬もただのヤブ医者だったのかといって、ここで閉じる人がいるかもしれません。
しかし、最後の最後まで読んでください。あなたの忍耐は必ず報われます。これから述べるアドバイスはあなたの、あるいはあなたの家族のアトピー症状をきっと著しく改善してくれるでしょう。 ステロイドが含有されている軟膏でも、使うタイミングと量さえ間違わなければ、決して危なくはないのです。

こういうセリフは、アタシを、オレを、ステロイド漬けにした医者から耳にタコができるほど聞いた!と言うなかれ。
最後の最後まで読破されたし!

ステロイドを経口的に服用するのと、皮膚に塗るのとでは、その副作用の現われ方が天と地ほど違います。そこを無責任なマスコミの報道に惑わされて、すべてのステロイド使用がいけないと勘違いしていらっしゃる患者さんが、あまりにも多すぎます。

この誤解に良識あるドクターたちはたいへん迷惑しているのが現状です。アトピーの治療が非常にやりづらくなったのです。いちいち説明しなければいけません。 その分、治療に当てる時間が少なくなってしまいます。

ステロイド外用薬(つまりステロイドの入っている軟膏)を皮膚に塗布して、経口的に服用したり注射したりして体の中に入れた場合の内科的副作用をおこさせるには、 それこそ大量のステロイドの外用をしなければいけません。

現実には、ステロイドの外用でムーンフェイス(満月様顔貌)、胃潰瘍、糖尿病、うつなどといったステロイドの内科的・精神科的な副作用はほとんどおこらないのです。 ステロイドが入っている軟膏で生じる、現実的な副作用は皮膚の炎症と萎縮です。目の回りにステロイド軟膏を使用したために白内障がおこると、記述されている皮膚科の教科書がありますが、臨床的事実としては非常にまれです。

もっとも、アトピー患者さんが白内障、網膜剥離、角膜潰瘍、円錐角膜にかかりやすいのは事実で、ぼくもそれに注意して、定期的な眼科の受診を患者さんにすすめますが、 それはステロイド軟膏の副作用とは違った理由でおこるのです。表皮も、目の角膜外層・水晶体・網膜も、発生の時期には外胚葉から分化します。
つまり、同じ組織から発生するわけで、詳しい理由は未だに不明瞭ですが、皮膚も目も起源は同じで、活性酸素の悪影響を非常に受けやすいということが一つの理由だと考えられます。 それと、顔面がかゆいので目の回りを激しくたたくことにもよるかもしれません。

特に白内障はアトピー患者さんには多く、10代~20代にかけて発症の比率が高いのです。眼科医曰く、アトピーに合併する白内障には特徴があり、角膜中央部にヒトデ状・星芒状のびらん混濁が見られるそうです。アトピーでは白血球の好酸球が増えますが、その主要塩基性タンパクが酸性脂質と結合して、水晶体上皮細胞を障害するようです。

また、ステロイド軟膏で色素沈着が生じるともいわれますが、これもおかしなことで、本当のところは適切な治療をせず、皮膚の炎症を長期間コントロールしなかったのが原因です。 ステロイド軟膏を長期的に使用すると、皮膚の角化細胞の炎症性サイトカインの一つであるIL-1の作用が増強され、それが皮膚炎おこすことと、線維芽細胞という新しい皮膚をつくる細胞の働きが抑えられ皮膚の萎縮がおこることです。(サイトカイン:多数の異なる細胞に働きかけ、細胞間相互作用をおこすタンパク質)その結果、ちょっとした刺激で皮膚はたやすく破れ、かゆいこともあって、すぐにかいてしまい、よくアトピー患者さんに見られるように、血だらけになってしまいます。
しかし、これは数ヶ月から数年に渡りえんえんとステロイド軟膏を塗っていればということで、短期間であればまず問題はないのです。

つまり短期決戦の要領でステロイド軟膏は使われるべきなのです。

このサイトを読んでいる人のなかには、すでに何年もステロイド軟膏を使い続け、皮膚の萎縮や炎症をおこしている患者さんがおられるはずです。何度も脱ステロイドを試み、リバウンドに苦しめられ、結局はまたステロイド軟膏に頼るということを繰り返してきた人が、重症アトピー患者さんにはかなりおられます。

しかし、必ず先見えるのですが。

*アトピー治療における要点

アトピー治療において、先が十分見えるように、さまざまな方法を解説しますが、要点をごく簡単にまとめると、次のようになります。

  • ステロイド軟膏は必要な場合があり、正しく使うべきである。
  • 脱ステロイドをするからアトピーが治るというのは、何の医学的根拠もない。
  • アトピーのほとんどの基本的な原因は体の中にあり、体の中から改善されていくと、自然に脱ステロイドが可能になる。

脱ステロイドの最悪の例をあげましょう。30歳の男性です。ステロイド軟膏は危険だからということで、脱ステロイドを始めます。急に止めたため、当然、ひどいリバウンドがおこり、全身をかきむしります。 掻き傷が体中にできます。そこから、細菌が入り、心臓の弁にいたり、心臓弁膜症をおこします。そこで、開胸手術で、心臓の弁を人工弁に置換します。これだけでも、たいへんなことです。 しかし、それだけではすまなかったのです。人工弁にするとどうしても血栓ができやすく、それが脳に飛び、脳梗塞をおこし、幸い体の麻痺は残りませんでしたが、 軽い言語麻痺が残ってしまいました。アトピー → 無謀な脱ステロイド →心臓弁膜症 → 脳梗塞 という図式です。絶対に、無茶な脱ステロイドを試みてはいけません。

ステロイドを止めるにも、止め方というものがあります。もちろんぼくのクリニックでも最終的にはステロイド軟膏を使用しないですむ状態にまでもっていこうと指導しますが、 いっきにステロイド外用を止めることはありません。
今、述べたように危険だからです。ステロイドは現代医学が人類にくれた最高の賜物の一つであるということを、決して忘れてはいけません。毒ではないのです。
これがなければ、非常に多くの人が死に至り、激烈な痛みのまま生活を余儀なくされます。工夫して使えばいいのです。自然のサプリメントと共存させて使えばいいのです。

医薬品をできるだけ使わず、自然の材料でできたサプリメントだけで治療を行なうとしているぼくが、なぜあえて、ステロイド含有の軟膏を許容するか、そのわけは以上のとおりです。 現在のところぼくはステロイドよりまさるものとまだ出会っていないからです。出会えば、当然、あっさりと捨て去ります。

また、ここで、重大なことは、再度言いますが、脱ステロイドするからアトピーが治るのではなく、 体の中から改善されアトピーが治ってくるから脱ステロイドができるのです。そして、その過程は、1年から2年ほどかかりますから、自然に知らないうちに、 「脱ステロイド」が達成されるということです。

ぼくは、いまだかつて一気に脱ステロイドを試みて成功した患者さんを見た(診た)ことがありません。悲惨な状態に陥り、失敗した人がほとんどです。

少しずつステロイドを減らし、あとで述べるサプリメントを摂り、食事に気をつけているうちに、ゆっくりと、三歩前進二歩後退という調子で、 ジグザクしながらも改善に向かっていくものです。そして、一年もたって振り返ってみると、なるほどステロイドを使う量がずいぶんと減ったと気づくのです。 これが、本当の意味での脱ステロイドで、こういう脱ステロイドを行うと、リバウンドもありません。

さきほどの、心臓弁膜症と脳梗塞までおこした患者さんは、結局、ステロイドを使わなければ、コントロールできないとわかり、ぼくのクリニックの軟膏を使い、適切なサプリメントをとりながら、超重症のアトピーを2年半かけて、ついにステロイドなしで、コントロールできるようになりました。

長い人生においては、当然、不可避的にストレスのかかる状況に置かれ、アトピーが再発することもあります。
しかし、そういう場合でも、せいぜい2~3週間ほど、ためらわず、ステロイド軟膏を使用すれば、それだけで乗り切れていけるものです。 もう、アトピーをおこさせる体質を基本的には改善していますので、重症化することを恐れる心配はないのです。

特に、受験や就職活動を行っている精神的ストレスがかかる時期に、一気に脱ステロイドを試みるのはいけません。絶対といっていいほど、失敗します。 こういう時期は、むしろステロイド軟膏を積極的に使い、痒みや赤味を一時的に抑え、人生の一大事を乗り切ることです。そして、それを乗り越え、ストレスが比較的にかからない時期に、ゆっくりと脱ステロイドしていくのです。

Visits: 788