猫が体を拭く

私の住まいの近くには、「猫処(ねこどころ) にゃんすか亭」というネコ・カフェがあります。そのせいかどうかは知りませんが、なぜか野良ネコも多く、通勤の行き帰りに、いつも数匹のネコを見ます。ネコたちはもう私に慣れているのか、私を見ても逃げようともせず、のうのうと「猫体操」をしたり、唾液で自分の顔や体をふいています。みんなつやつやとした毛並みで、いたく健康そうなのです。

ネコの寿命は、昔は家ネコ10年、野良ネコ5年と言われたそうですが、今はもっとのびて、家ネコの平均寿命が15年だそうです。それにしても、ヒトと比べると短い。しかし、短いなりに、精一杯けなげに生きているわけで、その秘訣は、野良ネコの場合、粗食と運動(歩きまわりますから)になるのでしょうけれど、家ネコの場合、ヒト様より数倍贅沢なものを食べ、ひなが一日中縁側でひなたぼっこをして、「猫体操」もやらず運動不足は間違いないように見えます。
そうなると、野良ネコと家ネコに共通する健康維持ファクターは「唾液によるお手入れ」になりそうです。ネコは街をうろうろしていても、家でゴロゴロと喉を鳴らしても、唾を手につけ、それでもって体をふいて、肌や毛の手入れをしている時間が、最低一日の三分一にはなると言われています。それほど、ネコの唾液には何か重要なものが含まれているのでしょうか?

話は少し逸れますが、「眉に唾をつける」とか「眉唾もの」という表現があります。この語源は、キツネに騙されないようにするには、眉に唾をつけると良いという俗信・迷信からきたそうです。キツネは人の眉毛の数を数えて化けたり騙したりするようで、そうさせないために、眉毛に唾をつけて固めて、キツネに眉の数を勘定させないようにしたということです。しかし、この説こそ、まさに「眉唾もの」のようにきこえますが、古人は「唾液」に何か特別な霊力のようなものを感じていたのは確かです。まさか、ネコがそういう霊力を信じて、唾液でせっせと自分の顔をふき、毛並みをブラッシングしているわけではないでしょうが、唾液にはネコたちにそうさせるための十分な医学的根拠があるのです。

ヒトの唾液の組成は99.5%は水ですが、リゾチーム、ラクトフェリン、ヒスタチン、ラクトペルオキシダーゼ、IgAなどの抗菌物質、パロチンなるホルモン様物質、粘液性のタンパク質ムチン、それにアミラーゼなどの消化酵素が含まれています。ネコの唾液にはデンプンをブドウ糖やマルトースやオリゴ糖に変換するアミラーゼなどの酵素はほとんど含まれていませんが、その他の成分はヒトとほぼ同じです。また、唾液腺もヒトと同じですが、真性肉食動物であるネコには、ヒトがもっている顎下腺、舌下腺、耳下腺以外に、もう一つ、頬骨腺という唾液腺が存在します。

以上のように、ヒトとネコは食性の違いによって、成分や唾液腺の多少の違いはありますが、唾液の働きは同じです。その、最も重要な働きは、何と言っても、抗菌です。口は消化管に入ってくる、あらゆる雑菌防御のための最前線です。極端なところ、口で有害微生物を完全にシャットアウトできれば、胃酸もさほど酸性度が強くなくてすむのです。つまり、唾液には殺菌能力があるのです。また、傷を癒す働きもあるようで、人間でさえ、指を傷つけたとき、思わず舐めたりします。本能的に唾液の効能を動物は知っているのです。

ここにネズミを使った面白い実験を紹介しましょう。オーストラリアのメルボルンの Royal Children’s Hospital で行われたもので、世界的に最も権威のある科学誌Nature に発表されました。Nature 279, 793 – 795 (28 June 1979) 。
ネズミの背中に傷をつけます。二つのかごを用意し、一つのかごには、ネズミを一匹だけ入れ、もう一つのかごには数匹入れます。数匹の方は、お互いの傷をネズミが舐めることができますが、一匹にされた方は自分の傷を舐めることができません。12日たつと、数匹の方は、傷がすべてふさがりましたが、一匹の方は、76%しかふさがりませんでした。特に三日目あたりの差が顕著で、傷を舐められる方は85%ふさがっているのに対し、傷を舐められない方は20%しかふさがりません。つまり、唾液の中には、殺菌と創傷治癒のために素早く働く有効物質が含まれているということなのです。

もし、唾がでなければ、どうでしょうか? 有名な病気があります。ドライマウスとドライアイを主訴とするシェーグレン症候群です。圧倒的に女性の方が多くかかる病気で、年間1万5千人~2万人ほどの罹患です。しかし、実際にはその10倍ほどの患者さんがいると推測されています。唾液腺から唾液の分泌や涙腺から涙の分泌が低下します。そのため、口腔に関しては、口渇、味覚障害、口内の疼痛、虫歯の増加、そしてひどい場合は嚥下困難までおこります。治療は主に「人工唾液」などの対症療法になりますが、ステロイドや免疫抑制剤を使わざるを得ない場合もあります。命をとるほど深刻な病気ではありませんが、かなり日常生活に支障をきたします。つまり、唾液は機能的にも、たいへん必要なのです。

そこで、この重要な唾液を、ネコにまねて洗顔用に使えば、非常に肌に良いのではないかと、ネコでない私たちも考えました。しかし、ヒトやネコの唾液をそのまま使うわけにはいきません。そこで、できるだけに唾液に近く、赤ちゃんにも優しい成分を使おうと、スタッフ一同、二年近く試行錯誤を繰り返し、ついに完成したのが「タマシャン」です。タマはもちろんネコのタマです。

そもそも、私は朝、洗顔をしません。まったく洗顔しないというのではないのですが、真冬でも冷たい水で両眼を軽く洗い、目やにをおとす程度です。額も頬も顎も洗わないのです。夜は、石けんを使わず、お湯で洗うだけで、「タマシャン」ができてからは、それをさっと塗って、皮膚に栄養を与えるだけです。
化粧はいっさいしませんし、乾燥肌でもないので保湿クリームなども使いません。顔にはここ50年間、何も塗らないで生活してきました。したがって、余分なものが、顔にはついていないので、洗顔する必要がないのです。安上がりなことこの上ない、いわば化粧品業界の大敵で、唾液で顔をふくだけのネコに近い存在でしょう。それでいて、「お肌、つやつや、すべすべ」の美肌(!?)なのです。和食中心で、しかも月桃やフラックスシードオイルあるいはエゴマオイルなどのサプリメントを摂っているため、体の中からの「お肌のケア」が良いのでしょうが、肌の保湿に重要なフィラグリンやコラーゲンに関する遺伝子(MMP-1遺伝子)に変異がないのも幸いしているようです。

しかし、日本のアトピー性皮膚炎の患者さんの約1/4~1/3には「フィラグリン遺伝子」の変異があり、また「MMP-1遺伝子」の変異もおよそ1割りほどにあると推測されます。(「乾燥肌について」をお読みください)さらにセラミドの生成にも問題のある人が多く、一般的に肌の保湿能力が非常に弱いのです。特に顔は、常に外気に触れていますから、顔の乾燥防止はアトピー改善にも必須です。 それを考慮して、「泡なしオイル石けん」をつくり、それで軽く洗顔するように指導していました。しかし、それでも乾燥するという人がおられるようなのです。そこで、この「タマシャン」です。朝、洗顔するにせよ、しないにせよ、「タマシャン」を使って、皮膚に十分、栄養と保湿力を与えてください。1億総ネコ・ニャン風の朝なのです。その日は、きっと、良い日になるでしょう。

最後に簡単に唾液の有効成分を説明しておきます。

リゾチーム

グラム陽性菌の細胞壁を構成する多糖類を加水分解する酵素で、塩化リゾチームとして、20ほどの様々商品名で売られています。ニワトリの卵の薄い皮(卵殻膜)にも多く含まれています。
そこに含まれているリゾチームによって、ニワトリは卵の中の胚を細菌から守っているのです。私のクリニックでも卵の薄皮のサプリメントを、特に結節性痒疹などの治療に使います。

ムチン

ムチン

セリンやトレオニンなどのアミノ酸が60~80ほど結合したペプチドに糖がくっついている多糖類の一種で、高級中華料理の食材に使われている燕の巣にも多く含まれています。粘膜保護作用が強く、胃を胃酸から保護してくれます。(ちなみに、タマシャンに使われているムチンは、ブタの胃壁から抽出されたものですから、万が一あなたがイスラム教徒であれば、タマシャンはお使いにならないでください。最近は、世界中の人たちが、このHPにアクセスしますので、念のために書いておきます)。インフルエンザなどのウイルスの侵入も防ぎます。保湿力に優れていますから、化粧品にも使われています。

ヒスタチン

タンパク質の一種で抗細菌活性、抗菌活性を持ち、傷をふさぐ役割があります。

ラクトペルオキシダーゼ

ペルオキシダーゼの酸化還元活性を利用した抗菌作用は、ラクトペルオキシダーゼシステムと呼ばれています。過酸化水素とチオシアン酸イオンからラクトペルオキシダーゼがハイポチオシアン酸イオンを生成し、殺菌作用を行います。

ラクトフェリン

ラクトフェリン

母乳に最も多く含まれている赤いタンパク質です。さまざまなラクトフェリンが売られていますが、胃酸で分解されずに腸まででとどくタイプの ラクトフェリンでなくてはいけません。詳しくは「腸溶性ラクトフェリン」をお読みください。

パロチン

耳下腺のことを英語でparotid gland あるいは単にparotid と呼びます。そして、このparotid は、ギリシア語のpar(近い、周辺)という接頭辞と oto(耳)を意味する名詞との結合で、耳のまわり、あるいは耳に近いという意味になります。耳鼻咽喉科は英語で言うと、otorhinolaryngologyになりますが、最初の otoはまさに耳なのです。パロチンは耳下腺から分泌されますから、parotinと命名されたようです。このホルモンは1934年、日本人の医師緒方知三郎によって発見されました。造血機能を高めたり、粘膜強化作用などがあり、一種の若返りホルモン様物質です。また、白内障にも効果がある(?)とのことで使われた経緯もあったようです。牛の唾液由来のパロチンから、パロチン錠という錠剤がつくられ販売されていましたが、狂牛病の関係から2014年に販売停止になりました。しかし、自分の耳下腺から分泌されるのは、安全なわけですから、十分に摂るにこしたことはありません。「耳下腺マッサージ」で画像検索してください。

Ig A

哺乳類や鳥類に存在する免疫グロブリンの一種で、唾液に含まれる分泌型IgAは粘液免疫に重要な働きをし、消化管や呼吸器に侵入する有害異物を排除してくれます。

EGF(Epidermal Growth Factor 表皮成長因子)

皮膚、歯、口腔粘膜、胃腸、血管などの細胞の増殖を促進させるタンパク質。

NGF(Nerve growth factor 神経成長因子)

神経節や神経線維の成長促進させるタンパク質。

【広報室】

兼ねてから当クリニックのアトピー性皮膚炎を始めとする皮膚疾患にお悩みの患者様や多くの女性の方々から「本当に肌のことだけを考えた洗顔を作ってもらいたい!」というご要望を沢山いただいておりました。そして、肌にとってプラスにならないものを一切排除して出来上がった究極の洗顔がこの「タマシャン」です。界面活性剤を捨てたことで「泡」さえもたたず、本当に洗えているの?と不安と違和感さえ覚えます。しかし私共は、肌をケアする力、安全性、品質には絶対の自信をもっております。継続する潤い、肌のコンディション効果を是非とも体験してみて下さい。

ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
 しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。

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