そこで、細胞膜に蓄積されたリノール酸は、ガンマリノレン酸を経てアラキドン酸に変化し、それがさらに悪性のエイコサノイドの方に属するプロスタグランジンやロイコトリエンへと代謝され、人体はわずかな刺激にも過剰に反応してしまうのです。
いいかえれば、最近、特に増えてきたアレルギー疾患は、細胞膜に過剰に蓄積されたアラキドン酸が原因なのです。
つまり、アトピーを治すのに一番大事なことは、オメガ3の油を増やし、オメガ6系不飽和脂肪酸とのバランスを適切なものにすることなのです。
また、動物性の牛、豚、羊、鶏などの肉、とりわけ反芻胃をもっていない豚と鳥の肉にはアラキドン酸が多く含まれていますので、これらも悪性エイコサノイドの材料を多く提供していることになります。したがって、できるだけ肉食をさけることです。
しかし、現代は、特に国が豊かになればなるほど、西洋的な食事、つまり油と肉を使う料理が 多くなり、オメガ3とオメガ6との比率(オメガ3÷オメガ6の値)が小さくなってきています。
これが、アトピー性皮膚炎や喘息、花粉症が、急増している大きな原因の一つなのです。国が豊かになり食生活が洋風になるにつれて、アトピーが増えてきているのです。
ちなみに、血液中の オメガ3とオメガ6の比率(ω3/ω6)を日米で比較したとき、日本人の場合、それが1/4、 日系アメリカ人が1/12、アメリカ人が1/16(最近は1/20~30にまでω6が増えたという研究報告もあります)で、アメリカの食事が圧倒的にω6系統の脂質、つまりリノール酸などが多いのです。その分、心・血管系の病気、アレルギー疾患、それにリウマチなども日本よりはるかに多く、かつ重症です。
先日、アトピーの患者さんから次のような質問が来ました。なかなか良いご質問なので、お答えしておきます。
Q質問 : ナタネ油などは古くから日本でも天ぷらなどの料理に使用されてきていましたが、なぜ近代になってそれが原因でアトピーや病気がふえたのでしょうか?
A回答: 昔のナタネ油と現在のナタネ油は天と地ほどの違いがあります。昔のナタネ油にはエルカ酸(エルシン酸と誤訳されていますが、この名前もよく使われます)が多く含まれております。この油は心臓に悪いということで、アメリカあたりでは問題視されていますが、それはオスのラットの心筋に壊死をおこすという1955年のカナダの研究からであって、ヒトには安全です。このエルカ酸が多い分だけ、昔のナタネ油にはリノール酸が少なかったわけです。
現在、多く出回っているのは、本来の菜種を品種改良して、エルカ酸含有量が2%未満しか含まない菜種にしたものからとった油で、いわゆる、キャノーラ油です。これが、エルカ酸を含む古来からのナタネ油とくらべて、いったいどれほど健康に良いのか?あやしいものだと、ぼくは思っています。ナタネ油にはエルカ酸が含まれているからこそ、天ぷらに使ったときに、カラッとしたあげ心地があったのです。
天ぷらは江戸時代にようやく庶民の口に入るようになり、屋台などで普及していたようですが、当時は現代と比べて圧倒的に油や獣肉の消費量が少なかったと推測されます。 また、現代は、天ぷらなど、油が使われていることがはっきりわかる食品だけでなく、いわゆる「うまみ」、「まろやかさ」、などを出すために、インスタント食品などに隠れて、 かなりの量の油が使用されています。ですから、リノール酸摂取の絶対量は、現代のほうが非常に多いのです。 江戸時代の屋台での天ぷら料理くらいであれば、むしろ健康に良かったかもしれません。リノール酸も、過剰摂取はいけませんが、当然、ある程度は必要です。
また、油だけがアトピーの原因ではありません。 これから述べるように、「過剰なタンパク質」と「Th1とTh2のバランスの崩れ」も原因しています。
それに、当時は、非常に多くの人たちが寄生虫をもっていました。そのため、Th1とTh2のバランスの崩れが、今よりずっと少なかったはずなのです。