1989年イギリスのStrachan博士によって提唱された説ですが、異常に清潔好きのぼくたち現代日本人にはうすうす気づかれていたことです。
つまり、抗菌グッズに囲まれたクリーンな生活環境はアレルギー疾患を引き起こしやすくするのではないかということです。
それを2万人に近い人間を20年以上に渡り追跡調査し、疫学的に立証したのです。
これを衛生仮説(Hygiene Hypothesis)と名づけて発表したのですが、当時はまだ医学界がTh1細胞、Th2細胞に対する理解が不十分だったため、広くは受け入れられませんでした。
しかし、現在は最も説得力ある学説の一つとして認められつつあります。
兄弟姉妹が多いほど、そして下の子供になるほどアレルギー疾患が少ない。つまり、幼いときに細菌やウイルスに感染すれば、アレルギー疾患にはかかりにくいと、疫学的に証明したのです。
その理由は、生活水準や衛生環境の向上によって幼少時の感染が減少したためだとしたのです。この説はその後多くの研究者によって確かめられています。
たとえばツベルクリン反応陽性率とアレルギー疾患発症率が反比例することや、麻疹にかかった子供は、かからなかった子供よりアトピー症状を発症しないことなどです。A型肝炎、ピロリ菌感染などでも同じことがいえるのです。
また、農家の子供は喘息になりにくいことはよく知られています。
オーストリア、ドイツ、スイスの、同じ地域の農家と農家でない家の児童を、彼らが寝ていたマットレスから採取したほこりより測定したエンドトキシンへの暴露濃度と喘息の発症率の関係を調べたところ、エンドトキシンへの曝露が大きいほど、児童が喘息をもつ可能性は小さかったのです(こんなことを証明されると、ダニのつかない布団を売っているアトピー業者さんは困ってしまいますね!)。
またアメリカのボストン市内に住む生後2~3ヶ月の500人の乳幼児を対象に追跡調査したものでも、エンドトキシン濃度が高いほど、赤ん坊は生後1年間、湿疹の発生率が少なかったのです。
さらに、エンドトキシン濃度を4段階に分類したとき、1段階ずつ濃度が上がるごとに、湿疹および類似のアレルギー性疾患にかかる危険率が25%ずつ減少したのです。つまり、簡単にいえば、ある程度、非衛生的な環境で育った子供の方が、アトピーになりにくいということなのです。
まさにそのとおりであり、チベットやインドネシアやラオスの元気な子供たちにはアトピーは皆無なのです。(*エンドトキシンとは細菌がもつ毒素の一種。グラム陰性菌が壊れて、その細胞壁の構成成分であるリポ多糖体が遊離し、毒性を発揮します)。
一般的にいって、新生児期にはTh2細胞優位なのですが、その後、細菌、ウイルス、細菌がだす毒素などに接し、Th1細胞が優位になり、Th1/Th2はバランスのとれたものになっていきます。
つまり健康に成長していくには、微生物からの適度な刺激がなくてはならないということなのです。
泥とたわむれ、野山をかけずり回る時期が必要なのです。ところが無菌室とまではいきませんが、それに近いような環境で、しかも少子のために過保護に育てられると、Th2細胞優位のままになってしまうのです。
そして、アトピーを筆頭に喘息、花粉症などにかかりやすくなってしまったのです。
また、乳幼児に過剰に抗生物質が使われ、悪いバクテリアのみならず無害なバクテリアも十把一からげに一掃されてしまうと、その後のアレルギー発症頻度が高くなります。 本当に賢い親たちは直感的にそれを知っており、ある程度子供を突き放して、抗生物質もできるだけ使わないで成長を見守ってきたのです。