(4) 米に注意

程度の軽いアトピーであれば、適切にステロイド軟膏を使い、「油と余分なタンパク質」や 「リンパ球Th1細胞に対するTh2細胞優位」を解決すれば完治されます。
しかし、一晩中かゆさが非常に強く一睡もできない状態だったり、えぐるような掻痒感にさいなまされたり、 あるいは像の皮膚のように硬くごわごわとした「苔癬化」をきたすほどの重症になっていれば、さらに工夫が必要となります。
アジアの食事で問題となるのは米です。米には意外にも、かなりの脂肪やタンパク質が含まれているのです。 普通、日本の食卓に上がる精白米には、100グラム中に、タンパク質が6グラム以上、脂肪が1グラム近く含まれています。 しかも、主食ですので、朝、昼、晩と三食摂る場合、相当な量になります。さらに、忙しい現代では、食事も忙しくせかせかと早食いすることが多く、事態を悪化させています。
よく噛まないものですから、米に含まれているタンパク質もアミノ酸のレベルにまで消化されず、ポリペプチドの形で残ってしまうのです。 これは先ほど述べたように、かゆみの原因になり、またアレルゲンにもなるのです。
アラキドン酸がいよいよ細胞膜に蓄積し、米に含まれている脂肪、タンパク質にまで影響をうけるほどになってしまうと、特に米を主食とする民族に属する人は注意しなければいけません。
何をやっても、どうしても痒みが軽減しない場合、1ヶ月は米を断って様子をみてください。そのかわりに、ジャガイモ、サツマイモ、カボチャなどで代用し下さい。 それで、少しでも楽になれば、米のタンパク質が災いしていたのかもしれません。(ただし、小児の場合は、小児科の主治医と必ず相談して、食事内容を決めてください。 成長に影響を及ぼしますから)。
米と、次の小麦については、「油を断てばアトピーはここまで治る」永田良隆著、三笠書房刊行もお読みください。 もっと詳しく、具体的にどのように対処すればいいか、書かれています。 もっとも、実際に家庭で実行するには、けっこうたいへんで、米抜きで、ジャガイモ、サツマイモ、カボチャなどだけの献立は、家族の理解と協力が必要です。 また、特に一人暮らしの独身男性には無理かもしれません。無理なことを続けるのは、精神的ストレスがかかります。 何がアトピーに最も悪いかといえば、「精神的ストレス」なのです。これは、多くのアトピー患者さんが経験されています。 (無理な食事制限、無理な脱ステロイド、この二つは、結局、惨めな挫折感だけをもたらし、ほとんどの場合、良い結果がでません。 なぜなら、過大な精神的ストレスがかかるからです。)

したがって、どうしても米が食べたい、あるいは米抜きのメニューは事実上不可能な場合、Aカット米を試されてもよいでしょう。 Aカット米のAは「アレルギー」のAで、アレルゲンとなるタンパク質に特殊な処理を施し、アレルギー反応をおこすことを「カット」したという意味です。 Aカット米には、100グラム中、タンパク質が2.1グラムしか含まれておらず、さらにそのタンパク質がすでに細かく分解されています。 当然、普通の米より割高です。それが欠点ですが、レトルト・パックに入っており、ゆがけば普通の米とまったく同じ味と色の米が簡単にできあがります。 インターネットで検索され、購入されるといいでしょう(無洗米とは違いますから注意してください)。

また、以上に述べた理屈で、特に玄米はアトピーには敵です。100グラム中、タンパク質が7グラム近く、脂肪が3グラム近くも含まれています。
玄米食は健康食だともてはやされているほど万人に健康だというわけではありません。人によってはひどい便秘をおこすことさえあります。体調をくずすこともあります。 また、玄米にはフィチン酸が多く含まれており、そのフィチン酸がマグネシウムと結合して、非常に大切なマグネシウムの吸収が邪魔されることもあります。

アトピーを含め、喘息、花粉症などのアレルギー性疾患をもっている人は避けた方が無難でしょう。なまじ自然派を標榜し、しかもアトピーを実際に数多く診ていない特に内科系の医師は、アトピーにも玄米食をすすめることがあります。他の病気には玄米食はいいかもしれませんが、アトピーには禁忌です。 これがモチ米、ヒエ(稗)、アワ(粟)、キビ(黍)ともなると、もっとタンパク質を含んでいますので、さらによくないのです。 また、モチ米からつくるオカキ類もひかえたほうが賢明です。

こういった点に注意をはらった食事をすると、必ず快方に向かいます。そして、やがて普通の精白米も食べても、悪化しない時が来ますから、希望をもってがんばってほしいものです。

* 以上に述べたことは、最近はやりの「糖質制限ダイエット」について書いているのではないことに注意してください。このダイエットは糖尿病には良いかもしれませんが(しかし、極端な糖質制限は糖尿病にもかえってマイナスです)、これを実行すると、どうしても肉や乳製品の摂取が増えてしまい、少なくともアトピーにはよくありません。

* 発芽玄米:玄米を1日~2日、ぬるま湯につけ、少し発芽させた米で、栄養価は玄米をしのぎ、かつ米アレルギーをおこしにくいとされています。
ただ、アトピーには、白米と比べて本当に良いものかどうか?そこのところは、かなり個人差があるようです。
もっとも、発芽処理の段階で、グルタミン酸からガンマアミノ酪酸(GABA)が多く生産され、それは玄米に含まれている量の3~5倍になり、このGABAは、精神安定化作用、脳神経機能の調節、代謝促進、不眠改善の効果があります。
したがって、精神的なストレスに弱いタイプのアトピー患者さんには良いかもしれません。 ただ、何事も、過ぎたるは猶及ばざるが如しで、毎食、発芽玄米にするのは、良くないでしょう。

(5) 小麦にも注意

小麦も5大アレルゲンに入るくらいですから注意が必要です。小麦粉を使った食物はたくさんあります。 含有されているグルテンの量によって、薄力粉、中力粉、強力粉と三つに分類できます。それによって、細かい注意が必要です。
グルテンは繊維状のタンパク質グルテニンと球状のタンパク質グリアジンがからみあって構成されています。 このグルテニンの方がアレルゲンとしては強力なのですが、グリアジンもアレルギーを起こすことがあります。
強力粉にはグルテンが重量比で11.5~13.5%含まれ、パン、ピザ、餃子の皮、マカロニ、ラーメンなどの原料になっています。 中力粉はグルテンが8.5~10.5%含まれ、ウドン、ソウメン、ドーナッツなど、薄力粉はグルテンが7.0~8.5%含まれ、ケーキ、菓子、てんぷらの衣などに使われています。
アトピー症状がひどい人ほど、当然、グルテンが多い強力粉からできたパン、ピザ、スパゲッティー、マカロニ、ラーメンなどは避けるべきです。 その代わりに、ウドンやソウメンにしてください。
しかし、この食事制限も症状が改善するにしたがって、当然、緩和されていくので、しばらくの我慢です。 もっとも、ラーメンは麺の上に余分な油がコーティングされていることが多いので、症状がすっかりよくなっても、食べないほうが賢明です。

*ここで注意していただきたいのは、だれにでも「グルテンフリー」の食材を推奨しているわけではないということです。最近「グルテンフリー」と宣伝されている食材や健康食品がいたるところに見かけられ、一種の流行のようになっています。しかし、もともとグルテンフリーの食材は「セリアック病」に対処するためのものであって、この病気は日本人には非常にまれです。
アトピー症状がひどい期間には、グルテンには気を配らなければいけないでしょうが、改善されてくれば、「グルテンフリー」にこだわる必要はありません。なぜなら、「グルテンフリー」の食材で、糖尿病のリスクが高まる可能性があるからです。その件に関して、欧州糖尿病学会の機関誌Diabetologiaに発表されています。
過度の「糖質制限ダイエット」や「グルテンフリー」は、いわゆる「ファッド・ダイエット」になってしまう危険性があるのです。

また、ソバは小麦粉を材料としていませんが、麺類の中でも最も多くタンパク質(アルブミンとグロブリン)を含んでいますので、これも避けたほうがいいでしょう。
それと、ソバアレルギーは腸管が十分に発達した成人でも残ることがありますから注意してください。
上述したAカット米からつくったAカットパンというものも出回っていますので、どうしてもパンに限るという人は、それにしてください。インターネットで購入できます。

(6)

4、5年前まで、ぼくは特に中学生以上の患者さんについては、卵は許容していました。
しかし、現代はあまりにタンパク質過剰で、特に運動不足の人は、卵もひかえたほうがずっと治りがはやいようです。
和食中心であるのに、なぜか治りがよくない患者さんには、ご飯に生卵をかけて食べるのが大好きという人がときどきいます。これではせっかくの和食も台無しです。
卵の黄身にはアラキドン酸が、卵白にはアヴィディンというタンパク質が多く含まれています。アラキドン酸から悪性のエイコサノイドが代謝されることはすでに詳述しました。 アヴィディンはあとで述べるアトピー治療に大切なビオチンというビタミンの吸収を邪魔します。

卵とリノール酸系統の油の混合物であるマヨネーズは特にいけません。卵はケーキなどにも見えない形で入っていますから、重症の人はそれらにも気をくばり、できるだけケーキ類は摂らないほうがいいのです。

このように述べていくと、先生、それじゃ、いったい何からタンパク質を摂ればいいのでしょうかという声というか、非難というか、悲鳴が聞こえそうです。
答えは簡単です。魚貝類、それに味噌、納豆という日本の発酵を通した伝統的大豆製品です(流行の大豆プロテインはやめたほうがいい)。また、最初に書いたように、米にはかなりのタンパク質が含まれています。白米にだって、100グラム中に、タンパク質が6グラム以上含まれているのです。昔の日本人は米からもタンパク質を補っていたわけです。 さほど、悲痛になって心配する必要はまったくないのです。それよりも、むしろタンパク質の過剰摂取をしないように気を使うことです。(注意:納豆は毎日、食べるものではありません。週に2、3回くらいで十分です。 理由はいまだよくわからないのですが、「ネバネバ」が強い食べ物は、例えば、オクラなども、頻繁に食べると、アトピーによくないのです。「ネバネバ」とは、非医学的表現で申し訳ないのですが、事実だから仕方ありません。)

しかし、非常に運動量が多く、汗を頻繁にだす人は、症状がよくなるにつれて、週に一、二度は肉のしゃぶしゃぶ(できれば鶏肉)や卵はいいでしょう。 そうでないと、過度の食事制限そのものが精神的ストレスになり、かえってよくないからです。

*注意:ニンニク、朝鮮ニンジン、レンコン、タケノコなどの、いわゆる精(せい)の強いものは、毎日、毎日は摂らないほうが無難です。先日、黒ニンニクのサプリメントを毎日、4年間、体力を補うために摂られていた、女性のかなりひどいアトピー患者さんを診察しました。さまざまな治療をなさっていたにもかかわらず、いっこうに治らない。そこで、そのサプリメントを止めてもらうように指導したところ、たった2ヵ月たらずで非常に改善されました。ときどき、摂るには、良いでしょうけれど、えんえんと続けるのは、ひかえたほうが賢明なようです。

ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
 しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。

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