瘀血(おけつ)という言葉を一度は聞かれたことはあるでしょう。西洋医学では使いませんが、どろどろとし、濁り、さらさらと流れない滞った血ということです。
しかし、いかにも非医学的な表現ですので、ぼくも正直なところ馬鹿にしていました。 血液は常に流れているもので、それがどろどろとして停滞しているなんて、ウイリアム・ハーベーの血液循環説に反します。
しかし、ぼくも瀉血してもらい、その自分の血を見た瞬間にこれが「瘀血(おけつ)」かと理解できたのです。どろどろとして、暗い紫色をした、見るかに汚い血です。 こういう血が実際にぼくの体内に溜まっているとはとても信じられませんでした。血液検査のために採血するときに出てくる血とは、性状のまったく異なった感じの血です。
釜山にある韓医学専門の病院でのことです。 慶煕大学韓医学部を優秀な成績で卒業し30年のキャリアをもつ院長先生いわく、瀉血法はどんな方法より、速やかに、かつ確実に、しかも大量に体内の有害物質を排毒してくれるそうです。
代替療法を行う医師の間で最近はやりだしたEDTAを使ったキレート療法より効果あるそうです。古代に盛んであったものの、いつの間にか忘れ去られてしまった方法です。
その瀉血を受けてから1週間は体がけっこうきつかったのですが、10日目ごろから急に目の回りの疲労感や、頭になんとなく雲がかかったような重い感覚がすっかり取れてしまい、 非常に体調がいいのです。
日本では、昔、鍼灸師や整体師が、伝統的な治療として行っていましたが、法律で禁止されてしまいました。医師しか行ってはならないようになったのです。
しかし日本では、ほんの一部の医師以外は、はなから瀉血の効用を知りません。現代の西洋医学一辺倒の医師たちは、薬品でしか治療しなくなったのです。ですから、瀉血療法はあたかもエアポケットに落ち込んでしまった状態なのです。最近、やっと肝炎にのみ、行われるようになってきました。
しかし、それでも、まだ多くの医者は、肝炎が肝硬変に移行し、さらに肝臓がんへと悪化するのを防ぐ一つの治療として、瀉血がきわだった効果をもつことさえ知りません。 ところが、韓国では医師が積極的にこの治療を取り入れています。
韓国には、伝統的韓医学を行う医師と、普通の西洋医学を行う医師と、2種類の医師が存在します。 大学も2種類あり、韓医学を専門に教える医学部、 日本の医学部と同じような現代医学を教える医学部と二つに分かれているのです。
各々6年間の教育がほどこされます。社会的地位はどちらもほぼ同じです。患者がどちらの医師を選ぶかは、患者の自由選択です。 最近は韓医学の医師を選ぶほうが多いようです。
瀉血の効用について書けば、一冊の大きな本ができてしまいます。おそらく、人類の歴史が始まって以来の治療でしょう。中国でも紀元前に青銅のカップで行われ、古代ギリシアでも、そしてイスラム世界では、牛の角をくりぬいたものを背中にあて、血をすう吸角療法とよばれる治療が千年以上も前に存在しました。
ただ、昔は細菌感染に対する知識がなかったため、不潔な器具を使い、かえって重篤な感染症にかかり命を落としたことがあったのです。 そのため、特にヨーロッパでは18世紀以後すたれてしまいました。しかし、その点に注意し、体力に合わせて瀉血する血液の量を加減すれば、きわめて有効な解毒の手段なのです。
ちかごろ、EDTA、DMSAによるキレーション療法に関する質問が、患者さんからときどきあります。この治療はアンチ・エイジングを標榜する美容整形系のクリニックがよく行っています。しかし、実際のところ、アトピーにはほとんど効いていないようです。瀉血の方がずっとすぐれているというのが、ぼくの正直な感想です。特にステロイド軟膏を止めたときの、いわゆるリバウンドといわれる急な悪化を和らげるのにも効果があります。