10. ビタミンC
昔、ぼくはビタミンCをかなり大量に患者さんにすすめていました。しかし、このビタミンは、使い方の非常に難しいビタミンであることに気づき、最近は必要最低限にとどめています。
ビタミンの点滴による大量療法というのが、はやっています。これは危険な治療法です。アトピー患者さんは、受けてはいけません。ぼくの患者さんで、これを受けていた人がいました。 確かに受けたあとは2~3カ月は非常に調子がいいのです。しかし、時間がたてば悪化し、また、点滴大量療法を受けます。そして、またしばらくすると悪化。 そして、同じ治療。 それを数度繰り返しているうちに、最初の状態より、結果的にはもっとひどくなっているのです。
これは、ステロイドの内服と似ています。 しかし、たちが悪いのは、ステロイドの内服は副作用があるということで、患者も医者も慎重に行うのですが、ビタミンCには一見すると副作用がなさそうに見えてしまうので、 無謀に大量療法を行う結果になってしまうことです。
ヒトとチンパンジーは、グロノラクトンオキシダーゼという酵素をもっていないため、体内でビタミンCをつくる能力がありません。 他の哺乳動物、たとえば犬、猫、ライオンなどは、自分の肝臓でビタミンCを合成することができます。 ライオンがビタミンCを補うために、せっせとオレンジを食べている光景は、なんとなくさまになりませんね。なぜなら、彼らは本来的にその必要がないからなのです。
なぜ、高等動物であるヒトやチンパンジーがその大切な能力を失ったか? 進化すればするほど大切な能力を本来備えていなければいけないはずであるがゆえに、この事実はダーウィンの進化論の一つの欠陥だと考える学者がいます。 しかし、ここで発想を転換し、余分なビタミンCは知能の発達には、かえって災いをもたらすがゆえに、 グロノラクトンオキシダーゼをつくる遺伝子を、ヒトとチンパンジーは捨ててしまったと考えると、つじつまが合います。
また、特に、結節性痒疹、貨幣状湿疹などには、むしろビタミンCは禁忌であるような印象受けています。
しかし、うまく摂れば、非常に効果のあるビタミンであることには間違いありません。 なぜなら、強い抗酸化作用があるととともに、副腎でのコルチゾール(ステロイドホルモン)の分泌を促します。 このステロイドホルモンは自分のホルモンですから、副作用なしに安全に炎症を止めてくれます。
それと、皮膚にとって極めて大切なコラーゲンの生成にビタミンCは必須です。まず、プロリンなるアミノ酸が、ビタミンCの存在で、ヒドロオキシプロリンに変化しなければいけません。 このヒドロオキシプロリンが、コラーゲンの前駆物質である、構造の不安定なプロトプロコラーゲンの鎖をより合わせて、コラーゲンとするのです。
ぼくのところからサプリメントセットを購入される場合、セット1、セット3、セットRにエスターCというビタミンCを配合しています。エスターCは、胃に刺激が少なく、ローズヒップが10mg、アセロラが10mg、ルチンが5mg、シトラスバイオフラボノイドが25mg含まれています。
しかし、くれぐれも、度をこしてビタミンCを摂ってはいけません。アトピーが消えたら、サプリメントからビタミンCを摂る必要はありません。
昔は、維持量として、日に2g摂るようにすすめていましたが、今はすすめていません。
なぜなら、今、多くの加工食品には抗酸化剤としてビタミンCが添加されており、それらを毎日食べているわけで、現代人は、知らないうちにかなりの量のビタミンCを摂っているからです。
皮膚に一番良くないケースは、正しく診断すれば貧血でないのに、勝手に貧血だと思って、鉄のサプリメントをビタミンCと一緒に摂っているケースです。 これは、若い女性にけっこう多い。二つのサプリメントはコンビニでも安く買えることもあって、スナック感覚で鉄とビタミンCを摂っています。鉄の過剰摂取は肌に決してよくないのです。 そして、ビタミンCは鉄の吸収を促します。
しかし、野菜や果物から摂るビタミンCは気にしなくてけっこうです。 ただし、鉄分の多いプルーン、ホウレンソウ、ヒジキなどはひかえた方が賢明です。料理の材料の一つとして入っているような量は気にしなくていいです。 まったく問題ありません。
一度、こういう患者さんを治療したことがあります。20代の学生です。インターネットで写真を送ってこられたのですが、一見して、超重症です。 大阪在住でしたので、すぐにクリニックに来てもらいました。さまざまな治療を受けられていたのですが、まったく改善しない。 ステロイド軟膏の使用には理解があり、かたくなな脱ステロイド派でもなく、まともな使い方をされている。確かに食事はかなり良くないものの、ここまで重症化するほど、ひどい内容ではない。
そこで、詳しく聞いていくと、「むずむず脚症候群」(これはれっきとした病名です)の治療のため、鉄剤を服用されていることがわかりました。 そこで、いったんその鉄剤の服用を中止してもらいました。重症の鉄欠乏性貧血ではないので、命には関係がありませんので。すると、たった2ヶ月で見事に改善し、半年後には、 大学病院から処方してもらっているステロイド軟膏を親水軟膏で薄めたものを時々塗るくらいで、コントロールできるようになったのです。
アトピーが改善するにつれて、むずむず脚症候群もいつのまにか、治ってしまいました。鉄の皮膚に対する悪影響をまざまざと見せつけられた例でした。ビタミンCは、その鉄の吸収を良くしますから、非常に注意が必要なのです。
*ここでフリーラジカルという専門用語がでてきましたので、アトピーの発症にも深く関係していますから、簡単に説明しておきます。 読むのがたいへんだと感じる人は飛ばして下さってけっこうです。
フリーラジカルは、対になっていない一個だけの電子を最も外側の軌道にもっている常に不安定な分子をいいます。 それは、対になる電子を他の分子から奪い、安定な状態になろうと過激に動きまわります。 フリーラジカルに電子を1個奪われた分子は、それ自体がフリーラジカルになり、連鎖反応的にフリーラジカルをつくりだしていきます。
活性酸素は、フリーラジカルになった酸素分子(スーパーオキシドO2– )やヒドロオキシラジカル(•OH)、またフリーラジカルではありませんが、過酸化水素(H2O2 )、 一重項酸素(1O2)というような他の分子と極めて反応しやすい状態になった酸素をひっくるめていいます。
それらが人体に有利に働くときは、体外から侵入してきた細菌やウイルスといった異分子を殺して人体を守ってくれる役目を果たし、なくてはならないものなのですが、 正常な細胞のDNAまで傷つけることがあるのです。
この活性酸素とフリーラジカルがアトピーを悪化させる一つの原因となっています。活性酸素で酸化された過酸化脂質が皮膚の角層に付着し、 皮膚細胞を徐々に破壊しバリア機能を低下させるのです。
では、この活性酸素から身を守るにはどうしたらいいのでしょうか。 すでに人体は防御の手立てをもっているのです。その代表格がSOD(スーパーオキシド・ディスミュターゼ)で、その他、グルタチオン・ペルオキシダーゼやカタラーゼという酵素なのです。
こういった酵素の活性酸素に対抗する作用を抗酸化作用とよんでいます。 これら三つの酵素だけでなく、抗酸化作用を有する物質は自然界に非常に多く存在し、総称して抗酸化物質とよび、活性酸素を除去してくれるので、英語では「スカヴェンジャー」、 つまり「掃除人」ともよんでいます。
特に光合成を行なっている植物は毎日、大量の日光を浴びながら体内で膨大な量の酸素を発生させていますから、活性酸素もそのぶん多く発生し、 細胞のダメージを除去するためにふんだんに抗酸化物質を持ち合わせていなければいけません。
したがって植物の葉、幹、果皮には非常に多くの量と種類の抗酸化物質が含有されています。βーカロテン、リコピン、ルテインに代表されるカロテノイド。 最近話題になっている赤ワインに含まれている、アントシアニン、タンニン、カテキン、シンプルフェノールといったものもそのたぐいです。 健康になるには果物や野菜をせっせと摂りなさいというのは、実はそれらに含まれている抗酸化物質を摂りなさいということに他ならないのです。 そして体の酸化を防ぎ、錆を取りなさいということなのです。特に色の濃い緑黄色野菜が良いといわれるのは、その色素に抗酸化物質が多く存在しているからです。 伊達や粋狂に植物はカラフルな色彩をまとっているわけではありません。活性酸素から身を守るために、大量の抗酸化物質を自らの内に有しているからなのです。
ヒトの細胞もSOD、グルタチオン・ペルオキシダーゼ、カタラーゼなどを持っていますが、それだけではストレスの多い現代ではとても足りません。 特にアトピー患者さんの場合、外から補ってあげる必要があります。しかし、SOD、グルタチオン・ペルオキシダーゼ、カタラーゼなどは分子量が大きすぎて、腸では吸収されません。 そこで、分子量の小さい、ビタミンC、E、セレンなどが必要なのです。
以下、ビタミン、ミネラル、ハーブの話がたくさんでてきますが、もっと詳しく知りたい人は、ホームページのメニュー「 症状別治療ガイド」から、さまざまな症状や病気についてのより詳しい対処法がお読みいただけます。
ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。
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