ここ数年に、アトピー性皮膚炎の治療にかなりの変革が訪れました。それは、「フィラグリン遺伝子の変異」についての知見が深まったことです。
フィラグリンとは、表皮にある顆粒細胞で生産される一種のタンパク質です。これは皮膚のバリアにとって非常に大切で、これが極度に不足している典型的な病気が魚鱗癬です。Googleで「魚鱗癬」を検索されると、いっぱいでてきますので、ここでは説明しませんが、皮膚の保湿能力が非常に低く、常にカサカサとしています。
2006年に、アトピー性皮膚炎の約1/3~1/2にフィラグリン遺伝子の変異があるという研究がイギリスでなされました。これがきっかけとなり、日本でも研究され、日本人の場合、アトピー性皮膚炎の患者さん27%に「フィラグリン遺伝子の変異」が見られるという名古屋大学の報告があります。つまり、日本のアトピー性皮膚炎の約1/4~1/3には「フィラグリン遺伝子の変異」があるのです。
今年の4月に東京での診察会で診た患者さんです。その方は、「脱保湿療法(保湿剤や薬の類を一切つけずに入浴もしない)」をおこなっておられ、もう、にっちもさっちも行かないほどひどい状態で相談に来られました。いわゆる、「ガビガビ療法」というやり方を1年半以上おこなっておられ、ついに重症の魚鱗癬とほとんど変わりない皮膚になってしまったのです。IgEは70000という異常な高値で(正常は170以下)、内科では「高IgE症候群」の疑いありと診断されたほどです。
高IgE症候群は、先天的にIgEが高く、新生児期よりアトピー症状を発症し、肺炎などの肺の疾患、また特異的な顔貌、脊椎の側弯などの症状を示しますので、この患者さんは明らかに高IgE症候群ではありません。後天的にIgEが異常なほど高くなったのです。それは、脱保湿により皮膚のバリアーがきかなくなり、アレルゲンがめちゃくちゃに侵入し、IgEが次から次へと生産されたからだと推測されます。
この患者さんは、ステロイド拒否派の典型的な例です。しかし、ここまで極端ではないけれど、程度の差はあれ、ステロイドを嫌うあまり、皮膚が非常に傷み、IgEが10000~20000 と高くなってしまった患者さんが、ぼくのクリニックはおおぜい来られます。IgEの高い、低いはさほどアトピーの症状とは比例しません。IgEがまったく正常であるにもかかわらす、湿疹がひどい人もいます。しかし、ここまで、IgEが高くなると、治すのに余計な時間がかかります。「ガビガビ療法」は決してすすめられるものではありません。