Th1/Th2のバランスを是正するための梔子柏皮湯、補中益気湯、十全大補湯については、最初のほうで書きました。その他にも、かゆみに効果のある「白虎加人参湯」や、じゅくじゅくとした分泌物に対して「消風散」などをうまく組み合わせて、いい治療成績を上げておられる先生もたしかにおられます。
しかし、かなり漢方医学に精通していないと、はっきりいって無理です。

漢方医学は診断の仕方からして、現代西洋医学とはまったく異なっています。それなのに、西洋医学の治療の一環として処方されていること自体に無理があるのです。
中国では中医(中国の伝統医学を中心として施す医者)と現代西洋医学の医者とは、学校からして違います。また韓国でも韓医(韓国の伝統医学を中心として施す医者)と現代西洋医学の医者とは、学校が違います。
アメリカでは、現代医学を教える学校(ここを卒業すればM.D.:Medical Doctor)と、自然代替療法を教える医学校(ここを卒業すればN.D. :Naturopathic Doctor)とは違います。
そして、中医と西洋医、韓医と西洋医は社会的地位はほぼ同じで(ただし、アメリカの場合、M.D.の方がN.D.より社会的地位は高い)、しかも、各々が行っていい治療と、行ってはいけない治療が法律で定められています。

つまり、いいかえれば、漢方医学を勉強するには、それ相応の長い医学教育が必要であり、現代西洋医学だけしか学んでいないものは、漢方を取り扱う資格がないということなのです。
それなのに、私的な勉強会くらいで学んだだけの貧弱な知識と経験で、漢方治療が行われているのが多いのです。どう考えたところで、そんなに効果があるわけはありません。したがって、ぼくは漢方で治療はしません。浅はかな知識がどれだけ恐ろしいか熟知しているからです。「生兵法大怪我のもと」的治療は患者さんを苦しめるだけなのです。
せめて、Th1/Th2のバランスをチェックした上で、梔子柏皮湯を処方するくらいならいいのですが。

ぼくのクリニックに来られる患者さんで、症状がひどいほど、一度は漢方(内服)を試された人が多いようです。その人たちを分類すると、大きく3つに分かれます。

  1. まったく良くも悪くもならないという患者さんが1/3。

  2. ある程度までよくなるのだが、それ以上良くならないという患者さんが1/3。

  3. 途中でかえってひどくなり、じゅくじゅくと滲出液が出てきたので、それを漢方を処方した先生に訴えると、よくなる過程に生じる、一種の瞑眩反応(好転反応)で、体の内部にあった悪いものがどんどん外に出ている状態だから、気にせず漢方治療を続けなさいといわれた。しかしとてもこわくてもう耐えられなくなった。それが1/3。

a、bの場合、3ヵ月を試みて、アトピー症状の改善がなければ、それ以上その漢方を続けても意味がないと考えられます。

しかし、漢方を処方する先生方の多くは、漢方による体質改善だといわれます。しかし、この体質改善という言葉ほど曖昧な言い回しはありません。
人の体質は遺伝子により、卵子と精子が合体したときに決定されており、遺伝子操作をしないかぎり体質は変化しません。いったい何をもって体質改善といわれるのでしょうか。もう少し、きっちりと定義してほしいものです。患者さんも、そこのところをしつこく先生に追求すべきです。
もし、いい加減にしか答えられないのであれば、その治療はナンセンスそのものです。漫然だらりと漢方薬をのみ続けるのは危険です。漢方薬にも副作用はあるのです。

非常に悪質な例を2件経験しました。

漢方治療をしているという患者さんに詳しく問診すると、漢方薬の他に、セレスタミンという抗ヒスタミン剤とステロイドの合剤が処方されていたのです。
一人は、漢方治療の途中、悪化するとこのセレスタミンを服用しなさいという指示を受ており、もう一人は、毎日、服用するようにいわれていたのです。
特に、後者の患者さんは、何と7~8年、このセレスタミンを毎日服用していたのです。しかも、就寝前にのんでいたのです!
漢方で治していたのではなく、本当のところセレスタミンの中に含まれているステロイドで症状を抑えていただけにすぎないのです。もちろんそれを患者さんにはそういう説明はなされていませんでした。

ここまでくれば一種の犯罪です。漢方治療という副作用のない治療をやっていると見せかけ、真実はステロイド治療をやっていたのです。
しかも、ステロイドは昼までに服用するのが正しいやりかたなのです。そうしなければ副作用が余計にひどくなるのです。早朝に重篤な発作がおきる喘息、朝に非常な痛みがでるタイプのリウマチには、夜、ステロイドを服用させることはありますが、これらのケースは例外的な投与法です。

したがって、後者の患者さんを治療していた医師は、漢方治療と偽ってステロイド治療をしていたにもかかわらず、そのステロイドの基本的な使用法も知らなかったという、とんでもない医者です。
セレスタミンはアトピー患者さんにときどき投与される錠剤です。注意して見ると〔311〕という番号が打たれています。これにはステロイドが入っているのです。
内服薬の中にこれが混じっていれば、是非、医者にその使用の理由を問い糾しましょう。なお、レスタミンという一字違いの薬は、単なる抗ヒスタミン剤ですから心配しなくてけっこうです。

今述べた患者さんたち以外にも、8年間セレスタミンを服用していた患者さんをつい最近診ました。
ここで、それを処方していた福岡市で開業している女医を名指しで非難したいほどの怒りを覚えます。この女医はアトピー治療で名が通っているということで、その患者さんは8年間もかかっていたわけです。

もちろんセレスタミンにはステロイドが入っているとは説明されていませんでした。全国の患者さん、特に内服薬には非常に注意して、それが何であるか確認して下さい。

c の場合ですが、漢方薬だけなく、数万ボルトの電気治療を受けている患者さんにもときどきおられます。これについては、いい加減にしておいたほうが安全ですよというしかありません。

どこそこのサンゴのカルシウムという健康食品をとられていた人がおられました。多少アトピーの気があるくらいの人で、健康増進のために、カルシウムがいいということでとり始めたそうです。

2ヵ月ほどして、全身にひどい湿疹ができ始めました。そこで、止めておけばいいものを、それは体の悪いものが外に出てきている反応だから、さらにとり続けるようにいわれたそうです。

ずいぶん素直な人のようで、じゃあ、もっととれば、もっとはやく悪いものが外に出るだろうと考えて、その人はそれまでの倍、そのサンゴのカルシウムをとったそうです。

すると、1ヵ月後、さらに症状は悪化し、さる国立大学医学部皮膚科でもお手上げで、ぼくのところにやって来られたときには、全身ずるむけ、包帯をミイラのように巻いて、2メートル離れていても、滲出液の悪臭が漂っていました。

単なる湿疹どころか、その時点では、落葉状天疱瘡という希な皮膚病となっていました。

こういう例を見ると、体の中の悪いものが外に出ているんですよ、もう少し、我慢しましょうというアドバイスは危ないという気がします。

もし、そのアドバイスが正しいという自信が、それをいった医師なり、治療を行なった人にあるのなら、「この瞑眩反応(好転反応)は一時的なもので、やがて必ず落ち着き、その後この症状は改善し、アトピーも改善することを保証します」と、一筆書いてもらいましょう。

もし、それを嫌がるようであれば、よしたほうが安全ではないでしょうか。

以上、a、b、cと漢方には否定的な見解を述べました。しかし、ぼくのところには、漢方でうまくいかなかった患者さんが来られるのであって、漢方でうまくいっている患者さんは当然来られません。

したがって、いい換えれば、うまくいっている患者さんもいるはずなのです。一度こういう患者さんが来院されました。その人は、北京まで漢方の治療を受けに行かれ、かえって悪化し、ぼくのところに来られたのです。

しかし、行った理由は、北京で漢方治療を受けて、アトピーが非常に改善した知合いから、じかにその素晴らしい治療を知らされて行ったわけです。

つまり、その知合いには漢方治療が奏効し、その人にはまったく効かなかったどころか、逆に悪化させたのです。

ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
 しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。

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