タクロリムス(プロトピック)
これは筑波山地の土壌から発見された放線菌からつくられた免疫抑制剤です。もともと、臓器移植や骨髄移植の際の拒絶反応を抑制する薬として1993年に認可されました。IL-2に代表される種々のサイトカインの発現を抑制することによって、細胞傷害性T細胞の分化増殖を抑制、細胞性免疫・体液性免疫の両方を抑制します。これがアトピー用の軟膏として承認されたのは1999年で、20年以上の歴史があります。副作用に悪性リンパ腫を発症させる可能性があるとして懸念され、最初は慎重に使われました。しかし、その可能性が否定され、特に顔の赤みには効果があるということで、最近はかなり積極的に使われるようになりました。
ステロイドにない長所としては、プロトピックには、黄色ブドウ球菌やマラセチア菌の静菌、フィラグリン発現増加、TRPV1受容体脱感作、IL-31産生抑制、IL-22産生抑制など多彩なものがあります。また、分子量が大きいため、皮膚の深部に入っていけず、表面にのみ作用し、その分、副作用が少ないという利点があります。
しかし、基本は免疫抑制剤ですから、特に顔に頻繁に使うと、どうしてもヘルペスができやすくなります。また、塗った直後のピリピリ感がつらくて、使用できないという患者さんはけっこうおられます。したがって、黄色ブドウ球菌やマラセチア菌などの感染が疑われる場合以外は、ぼくの患者さんにはほとんどすすめていません。
現在の皮膚科では、最初はステロイド外用薬で炎症を抑え、徐々にプロトピック軟膏に置き代えていくというのがトレンドになりつつあるようです。また、プロアクティブ療法として寛解維持を目的に週に1~2回使用するようにすすめる皮膚科医もいます。しかし、ステロイドを免疫抑制剤に代えていくというのは、どこか現代医学の深刻な怖さと闇があります。ステロイドであるていど緩解していけば、あとは極力、自然なやり方で、緩解維持を目指すべきではないでしょうか?
デュピルマブ(デュピクセント)
これは、一種の生物製剤で、IL-4受容体αに対する抗体です。このIL-4はTh 2 型炎症をおこす代表的なサイトカインで、皮膚のバリア機能を低下させます。したがって、Th 2 型炎症を抑えることによって、皮膚のバリア機能が回復します。ーー Th 2 とTh 1については、「Th1とTh2」をお読みください。2017年にアメリカで認可され、2018年に日本でも認可された新しい薬です。これは軟膏ではなく、注射です。FDAはデュピルマブを「画期的治療薬(Breakthrough Therapy)」に指定したほど効き目があります。患者さんはこれをうつと、すぐに痒みが楽になります。結膜炎が主な副作用ですが、まだ、使い始められてからの歴史が浅いので、これを長期にわたって使った場合、はたして致命的な副作用がでないかどうかが心配です。しかも非常に高価で、健康保険を使っても月に数万円かかります(最初の月が6万円、維持期に入ると4万円弱ほど)。既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎、重症又は難治の気管支喘息、慢性副鼻腔炎に保険適用となっています。つまり、にっちもさっちも行かなくなった状態で使われるべき薬であり、アトピー治療の、いわば、最後の最後の手段でしょう。
デルゴシチニブ(コレクチム)
JAK阻害薬の一つであるデルゴシチニブをアトピー用の軟膏として日本で世界にさきがけて、2020年1月に成人用0.5%軟膏、2020年5月に小児用0.25%軟膏)が承認申請されました。
細胞の外から様々な刺激を細胞内に伝えるために働く酵素群はキナーゼと呼ばれ、JAKはこのうちのひとつであるヤヌスキナーゼ(Janus kinase)の略称で、JAK1、JAK2、JAK3、TYK2の4種類があります。デルゴシチニブはこれら全てを阻害し、T細胞、B細胞、肥満細胞、単球等の免疫細胞および炎症細胞の活性化を抑制する事で炎症を沈静化します。したがって、皮膚萎縮や血管拡張などの、ステロイド長期使用による副作用が起きにくいとされています。
コレクチム軟膏の炎症をおさえる効果は、ステロイド軟膏のStrong ~Mediumクラスほどです。ステロイド軟膏はStrongest > Very Strong > Strong > Medium > Weakと5段階に分類されますから、コレクチム軟膏の抗炎症作用は、ほどほどだということです。重大な副作用は報告されていませんが、毛包炎などがあります。しかし、使い始められてからの期間が短いので評価は難しいところです。
バリシチニブ(オルミエント)、ウパダシチニブ(リンヴォック)、アブロシチニブ(サイバインコ)
これら三つはここ1年~2年にでてきたJAK阻害薬です。同じJAK阻害薬のデルゴシチニブは軟膏ですが、これら三つは錠剤です。一日一回服用するだけで、1日か2日で効果が出始めます。生物製剤のデュピルマブと同様、まさに魔法のような薬です。しかし、いずれも高額です。オルミエント4mgの場合、4週間で、健康保険を使って3割負担でも39,814円。リンヴォック30mgで62,660円、サイバインコ200㎎の場合、65,790円です。
これらの薬は歴史がきわめて短いので、いったん服用し始めた場合、どこまで続けて、どのような状態になったときに止めることができるのかが、まったく検証されていません。しかもきわめて高額である。健康保険を使っても月に65,790円かかる薬は、若い人にはとても続けらられるものではありません。これも、デュピルマブ(デュピクセント)と同様、最後の手段です。
バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ
いったん手をだすと、使いごちの簡易さと、効果の切れ味の良さに、えんえんと使ってしまいそうです。高価であるがゆえに、医師の収入アップにもつながり、医師も積極的に患者さんにすすめるかもしれません。しかし、すべて免疫を弱めてしまいます。こういう薬がアトピー治療の主役になってよいものかどうか?このへんで、じっくりと考えてみるべきでしょう。
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