100あるアトピーの症状を9割り改善し、10にまでもっていくことは、簡単なことです。しかし、それを5に減らし、3に減らし、1にするのは事実上かなり難しいのです。
ステロイドの内服を続ければ、100のところがほとんど0にまでなるでしょうが、それではできるだけ副作用のない治療をやろうという本来の趣旨に反します。
例えていえば、こういうことになるでしょう。1学年100人の医学生がいて、仮に今成績が最下位の100番の学生が、これではいかんと奮起して勉強を始めたとします。真面目に勉強しさえすれば2、3年もすると100人の内、真ん中ぐらいにはなれるでしょう。
さらにこつこつと勉強し続ければ、やがて上位30番、20番くらいまでは何とか上がっていけます。しかし、10番、7番となると、ものすごい努力が必要とされます。さらに5番以内となると、努力以外に、医学という学問に対する一種の才能が要求されます。また、100人の内、1人か2人は天才というものがいます。
凡人がいくら涙ぐましい努力をしたとしても、天才を追い抜くことはできません。アトピー治療にも同じようなことがいえます。症状の90%は今まで述べてきた方法で確実に改善できます。
しかし、あとの10%をきれいにしようとすると、けっこうな努力が必要とされることがあります。
たとえば、肉ジャガの肉はさけて食べないのは当然ですが、肉の汁がジャガイモや糸コンニャクについているからといって、ジャガイモも糸コンニャクも食べないというほどの食事制限になってしまいます。
すると、それがストレスになって、せっかく9割り改善されていたのが、そのストレスのために、逆に8割り、7割りと減ってくるということがおきてしまうのです。
また逆説的ですが、ストレスがいけないというので、ストレスを必死になって避けようと努力するために生じるストレス。この現実生活でストレスのない生活は事実上ありえないのです。
ある程度、ストレスはかかるものだと諦めなければいけません。したがって9割りも改善されたら、もう、それで十分という気持ちでいたほうがいいのです。9割主義で行くのです。
すると、少なくとも余分な精神的ストレスはかかりません。その分だけアトピーにもいい結果が出るのです。
少々、足がアトピーっぽい乾燥肌であるくらいは、気にしないほうがいいのです。特に男性の場合、足の美しさで女性を誘惑するのではないのですから、よほど特殊な職業についていないかぎり(たとえば男性のファションモデル)どうでもいいことではないでしょうか。神様からせっかくいただいた肉体を常に最高の状態に保つということは、人間にとって大切なことで、それは義務でさえあると思いますが、それも程度ものです。あまりにも神経質にならないことです。
ちょっとアトピーが残っているという理由で愛がさめるような恋愛は、始めからしないほうが賢明です。
むしろ、アトピーは彼、あるいは彼女の、自分に対する愛のバロメーターとでも思っていればいいのです。ほんの少し二の腕に発疹が出てきたというくらいで、避けるような恋人は、相手にしないことです。アトピーには尋常性魚鱗癬という角化異常症が60~70人に1人ほどの割合で(学者によれば10%~20%という人もいますが、ぼくの経験からするとそんなに多いとは思えません)合併してくるのが観察されます。主に四肢の伸側、体幹側面などの皮膚がかさかさと乾き、魚の「うろこ」のように見えます。遺伝性のものと後天性のものがあり、特に遺伝性のものは近親結婚を重ねた家系などにおこることがあり、重症例が多いようです。
しかし、アトピーに合併する魚鱗癬は幸い軽度のものが多く、「うろこ」とまで見えず、「乾いているな」という程度のものがほとんどですが、やはり他の部分と比べれば多少のきたなさは免れません。しかしまさに多少の汚さだけで、かゆみも痛みも伴わないので、それが人目に触れない部位であれば実害はないはずです。
かくいうぼくも、アトピーではありませんが、実は両下肢に軽度の魚鱗癬様の角化異常があります。
MA(0)とサリチル酸ワセリンを使用するときれいになることはわかっているのですが、本来の不精者で、毎日軟膏を塗るのが面倒臭くて、そのまま放置しています。つまりミニスカートをはくのでもあるまいし、痛くもかゆくもないし、それがなんだということなのです。
ところが患者さんの中には、ぼくのこの軽度の角化異常よりも、もっと軽度の角化異常を極度に深刻に受けとめ、どうにかならないものかと相談に来られる方がおられます。
しかも、とりわけ下肢の美容に絶大な注意をはらう必要はないと見える男性で、そういう患者さんがときどきおられます。ちょうど、一度心筋梗塞をおこした人が常に心臓の鼓動に異常に注意をはらうように、アトピー患者さんの意識は過剰なまでに皮膚に向けられているのです。
こういう心的傾向は明らかによくありません。もう少し大らかになるべきなのです。だれだって、身体中くまなく探せばどこかおかしな箇所は必ず一つや二つはあります。
そう悟るべきものなのですが、特に思春期の人たちは、もう、一途に「アトピー」で、他は何も見えなくなってしまい、目を皿のようにしてひたすら自分の肌ばかり見つめ、一喜一憂されています。これはアトピーの症状を改善させるにおいても、たいへんに良くないのです。
かえって悪化させる一要因になりかねません。アトピーでは絶対に死にはしないと考え、9割りでOKとして、あとは忘れることなのです。つまり、ここでも9割り主義で行くべきなのです。
もっとも、このように気持ちを変えることは、アトピー患者さんの身になってみれば、そうたやすいことではないでしょうけれど。
それと、アトピーが治ってから仕事を始めよう、あるいは大学に行こう、あるいは恋愛しようというような考えは即刻放棄して下さい。 例えはよくないかもしれませんが、ちょうど借金と同じようなもので、金が貯まったら返そうでは、永遠に返せないのと同じで、アトピーが治ったら、何々しようでは、一生何もできなくなってしまいます。
ある程度、アトピーと共に生きるという覚悟がなければ、大事な人生をぼうにふることになります。特に若いアトピー患者さん、勇気をもって前に進みましょう。それには、9割り主義で行くことです。
そうすることによって、かえって改善するのです。何となく説教じみて申し訳ないのですが、これはアトピーのみならず、すべての慢性的な病気にあてはまることなのです。
いかに持病とうまく折り合いをつけながら生きて行くかです。そして、ある程度妥協しながら前進するうちに、病の方がひとりでに後退してくれるのです。
また、アトピーが治ったら人生が変わるのという考えも放棄してください。幼少のころからアトピーでさんざん苦労された患者さんで、ぼくの療法で、46歳になって良くなられた方がおられます。
その人が、いみじくも、こう言われたのです。「このアトピーさえ治ったら、私の人生は劇的に幸福なものになるだろうと思っていました。しかし、ほとんど完治した今、私の人生は何ら変わっていないことに気づいたのです」。
つまり、病気と人生の幸福とは何んら関係がないということなのです。また、また、説教じみた話になってしまいましたが、これは名言です。実際に、数十年悩んだ人がこう言われるのですから、たいへん重みがあるのです。
ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。
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