ドミナンスとは優勢とか支配という意味です。日本語に訳せば、「エストロゲン優勢」とでもなるでしょうか。
エストロゲンとは単独の化学物質を示す言葉ではなく、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)、エステトロール(E4)などと、それらと同様の生物活性を有する化学物質の総称です。分泌源は主に卵巣の卵胞ですが(したがって卵胞ホルモンとよばれます)、副腎や精巣からも分泌されます。
エストロゲンは「女性をつくるホルモン」で、第二次性徴の発現、子宮内膜の増殖、月経周期の成立の媒介、乳腺管の増殖分泌促進などの作用がありますが、副腎や精巣でも分泌されることからおわかりのように、男性の体の中にも存在しているのです。
もちろんエストロゲンは男女ともに必要なホルモンですが、現代ではプロゲステロン(黄体ホルモン)やテストステロン(男性ホルモンの一種)との比率が、本来あるべき姿から逸脱し、エストロゲンが過剰に人体に存在するようになってしまったのです。
「エストロゲン・ドミナンス」とは、この状態を示します。
そして、これが次に列記するような、さまざまの病気や症状の原因の一つとなっているのです。
子宮筋腫・子宮がん・子宮頚部異形成・乳癌・生理不順・PMS・不妊・乳房の圧痛・多嚢胞性卵巣・前立腺癌・無精子症や新生児の尿道下裂・血栓の増加・胆嚢の病気・デプレッションや不安・気分の動揺・いらいら感・不眠・頭痛・疲労・むくみ・性欲の減退・蕁麻疹、湿疹、鼻づまり といったアレルギー症状・加齢亢進・特に腰まわりと太ももの脂肪の蓄積・銅の過剰と亜鉛の欠乏・マグネシウム欠乏・ビタミンB群欠乏・閉経前の骨密度低下・全身性エリテマトーデス(SLE)・甲状腺機能低下・代謝低下。

以上のように現代人が罹患する多くの病気にエストロゲン過剰が災いしているようです。
これだけの病気や症状を述べると、いかにもエストロゲンが悪役のような印象を与えてしまいますが、エイコサノイドのところで述べるように問題はバランスなのです。もちろんエストロゲンも必要です。しかし、現代は、男女ともに他のホルモンと比較すると、相対的に過剰なのです。
その理由の一つは、内分泌攪乱物質、つまり環境ホルモンです。
1990年代初めに報告されたフロリダのアポプカ湖のワニは、センセーショナルな話題を引き起こしました。環境問題にうとい人はごぞんじないかもしれませんが、それをきっかけに環境ホルモンの危険性がビジュアルに世界中に認識されたのです。アポプカ湖のワニのペニスが本来の4分の1から2分の1ほどしかなく、ほとんどの雄のワニが生殖不能になり、90パーセントが死滅してしまったのです。
その原因はおそらく、湖から数百メートル離れたところにある農薬会社の事故で大量の農薬がアポプカ湖に流れ込んだのが原因だとされています。
そして「奪われし未来」、「メス化する自然」と二つの優秀な本が出版され、環境ホルモンに対する研究にも拍車がかけられました。 詳しく書くときりがないので、二例だけをあげます。

プラスチックの一つポリカーボネートはビスフェノールAと塩化カルボニルを原料してつくられます。
軽さ、耐衝撃性、耐熱性、不燃性、高い透明度といった利点によりさまざまな製品の材料として使用されています。身近なものとしてはCDやDVD、家電製品、サングラスやメガネ、それに建築材料、光ファイバーなのです。しかし、ビスフェノールAには強力なエストロゲン作用があります。それなにの、学校給食が盛られる食器、さらに憂慮すべきは哺乳ビンにまで使われているのです。
95度の熱湯をポリカーボネート製の哺乳ビンに入れたところ3.1~5.5ppbのビスフェノールAが検出されたという報告があります。2~5ppbの濃度でも、そのエストロゲン様作用によって乳がんのがん細胞を増加させます(ppbは濃度の単位で、10億分の1を示します。たとえば、水1リットルあたり1マイクログラム)。

それから、人類が生んだ史上最強の毒物といわれるダイオキシンです。その毒性は青酸カリの1000倍、1グラムで17000人を殺せるのです。
しかも、どこにでも使われている塩化ビニール、塩化ビニリデンを燃やすと生成され、いったん体内に取り込まれるとなかなか外には出てくれないという、実にやっかいな物質です。欧米諸国と比べると、空気中の濃度は10倍から100倍というかなり危機的状態なのです。当初はがんや奇形の発生ばかりにダイオキシンの影響は関係すると見られていたのですが、その後の研究により、この凶悪な物質もエストロゲン様作用することが解明されてきたのです。ピコグラム、つまり1兆分の1の単位で作用します。1兆分の1といわれてもピンとこないでしょうが、50メートルプールにスポイトの1滴というイメージでよくわかるでしょう。

しかし、環境ホルモンはビスフェノールA、ダイオキシンの2例だけではないのです。
殺虫剤、工業廃棄物、自動車の排気ガス、石けんやシャンプー、ネイルポリッシュ、家具や建材の塗料にも環境ホルモンが含まれており、しかも、その大部分が、1兆分の1~10億分の1という単位でエストロゲン様作用を示すのです。
つまり、私たちはエストロゲンの大海に住み、乳飲み子の時から、いやもっと正確にいうと、胎児の時から過剰なエストロゲンにさらされているのです。
さらに、食事からもエストロゲンが入ってきます。特にアメリカ産の肉には多く含まれています。
エストロゲンの最大の役目は子宮内膜の肥厚や乳腺管の増殖分泌促進です。つまり、細胞の分裂・増殖をもたらすのですが、この作用が過剰になると、がんになるのです。特にホルモン依存性のがん、乳がん、子宮体がん、前立腺がんの三つは、エストロゲンに非常に影響されます。アメリカの場合、女性7~8人に1人が乳がん、男性11人に1人が前立腺がんにかかり、まるでペストやインフルエンザのような伝染病となってしまった感じさえします。
さまざまな原因が考えられますが、エストロゲン・ドミナンスも一つの原因ではないでしょうか。
エストロゲンは気分にも影響を与えます。
エストロゲンはセルロプラスミンという、血清中に存在する銅結合タンパクを増加させる働きもあります。 このタンパクが過剰のエストロゲンにより増加しすぎると、食事から摂取された銅が脳に入らなくなり、ひいてはデプレッションや深刻な気分のむらを引き起こします。
最近、うつ病と診断される人が非常に増えています。さまざまな原因が考えられますが、エストロゲン・ドミナンスの影響も否定できないでしょう。

また、エストロゲンは血栓の発生率を高くしますから、脳塞栓もおこりやすくなります。

それに、甲状腺機能抑制作用によって、「隠れ甲状腺機能低下症」の原因の一つにもなります。

また、特に最近目立つのが、40歳を過ぎて突然アトピーになるケースです。男性の方が多いようです。これは、おそらく若いころはテストステロン(男性ホルモン)が活発に作用していたのが、その分泌が年齢とともに減少し、かつ環境エストロゲン(女性ホルモン)が加勢し、体内のエストロゲンが本来あるべき量より相対的に優位になり、その結果リンパ球のTh2細胞優位になったせいもあるのかもしれません。
そこで、エストロゲン・ドミナンスを是正する対策が必要です。

1)エストロゲンの大海

最も大切なことは、私たちを取り巻く環境は、エストロゲンの大海であるということを認識することです。
そして、ほとんどの医者はエストロゲン・ドミナンスという事態に気づいていませんから、治療を受けるときにエストロゲン過剰によっても現在の症状が出ているのではないかということを、患者の方から医者に示唆するのです。
たとえば、よくあることなのですが、更年期前後の女性がデプレッションを訴えるときに、エストロゲン補充を行うより、プロゲステロンを補充した方が簡単に治ることがあるのです。
また、エストロゲン・ドミナンスは甲状腺抑制作用がありますから、甲状腺機能低下の症状、つまり、体温が常に36度を下回る、ぼんやりしていることが多い、うつ傾向がある、食欲は以前と同じなのにずんぐりと太ってきた、冷え性、便秘気味、コレステロール値が高くなってきた、というような症状を惹起させることがあります。甲状腺機能低下症の症状です。

そこで、甲状腺ホルモンをチェックする。しかし、正常の範囲である。したがって、どこも悪いところはないから、無処置。あるいは気のせいですと、処理されることもあります。

2)肥満対策

肥満は、特に閉経後の女性にエストロゲン・ドミナンスをもたらします。
卵巣がエストロゲンとプロゲステロンの生産を終えるのですが、男性ホルモンの一種の アンドロステンジオンをつくり続けます。それが脂肪細胞の中でエストロゲンに変換されるからです。
肥満とエストロゲン・ドミナンスは、ちょうど高血圧と動脈硬化の関係のように、どちらが先におこるかといえないところがあります。
高血圧になると動脈硬化が進み、動脈硬化が進むと血圧が高くなるのと同じことです。どこかで悪循環を断ち切らねばなりません。

3)肝機能強化

次に大切なことは、肝臓の機能を常に高め、過剰なエストロゲンを肝臓で代謝させておくことです。
過度の飲酒や肝炎のために肝機能が弱って出現する典型的なエストロゲン・ドミナンス症状は、男性の女性化乳房です。男性の乳房がエストロゲンの作用によって、女性の乳房のように大きくなるのです。肝臓で代謝されるべきエストロゲンが代謝されないのです。中年過ぎの、酒飲みの男性にときどき見られます。アメリカの男性の美容外科では、女性化した乳房の整形がトップをしめています。
それと、お酒飲みは週に二日(連続した二日間)の禁酒日をもうけることです。毎日、飲んでいては、肝臓が休まる時間がありません。
禁酒日は二日というのは、昼間も飲酒する人たちが多い、コーカソイド(白人)、ネグロイド(黒人)、オーストラロイド(オーストラリア原住民)の場合で、日本人の場合、お酒を飲むのはほとんど夕方だけなので、禁酒日は一日でいいという意見をいう人がいます。
しかし、前者3つの人種よりも、もともと私たちモンゴロイドは、アセトアルデヒド脱水酵素(アルコールを解毒する酵素)の活性が低いので、飲酒量は少なくても、当然、二日は連続して禁酒したほうがいいのです。

4)Th1とTh2のバランス是正

エストロゲン・ドミナンスになると、免疫系に重要な役割を果たす二つのリンパ球Th1とTh2のバランスが崩れます。
白血球は顆粒球、リンパ球、単球と分類できますが、そのうちのリンパ球は、さらにT細胞、B細胞と分化し、さらにT細胞はTh1とTh2に分化していきます。エストロゲン・ドミナンスが続くとTh2細胞が優位になってきます。
そして、Th2細胞はB細胞にIgE型抗体を作らせます。IgE型抗体はアレルゲンとくっついて、肥満細胞を刺激します。そこで、肥満細胞はヒスタミンやロイコトリエンを放出し、アレルギー症状を惹起させるのです。 * 「肥満細胞」は肥満とはまったく関係がありません。かたちがふくれているからそう呼ばれているだけです。肥満と関係があるのは、脂肪をため込んいる、「脂肪細胞」です。
つまり、エストロゲン・ドミナンス → Th2細胞↑ → IgE型抗体↑ →肥満細胞が刺激される → アレルギー症状悪化。と、いう図式です。特にⅠ型のアレルギーである花粉症、気管支喘息、食物アレルギー、などが悪化するのです。
アトピー性皮膚炎はⅠ型とⅣ型のアレルギーが関与していますので、最近、特に増えてきた理由の一つにこのエストロゲン・ドミナンスがあること否定できないでしょう。
そこでTh2細胞の優位を是正する必要があります。そのためには、次の二つが役に立ちます。
最初に述べたオメガ3系統の不飽和脂肪酸、それと、意外にいいのがキノコです。
アラキドン酸から代謝されてできるプロスタグランジンE2は、未分化のT細胞をTh2細胞に分化させる作用があるのです。このアラキドン酸カスケードと拮抗するのが、オメガ3系統の不飽和脂肪酸なのです。
キノコの細胞壁に含まれ最含まれているβ-グルカンはTh1/Th2のバランスを是正してくれます。
10年ほど前、日本のキリンの子会社が販売していた「キリン細胞壁破砕アガリクス」が、発がん性ありということで、販売中止になりました。それは熱水抽出が不十分でアガリチンという物質が分解されずに残っていたせいだといわれています。漢方薬でキノコを処方する場合、時間をかけて煎じます。ですから安全なのです。
したがって、キノコの高価なサプリメントを購入することができなければ、スーパーで売られている安いシイタケ、シメジ、エリンギ、マイタケ、キクラゲなどで自家製キノコスープをつくってください。漢方と同じように、時間をかけてゆっくりと煮込まなければいけません。特に干しシイタケには豊富なビタミンDが含まれていますから、ダシにも積極的に使われるといいでしょう。

 

ここに述べることは、あくまで一般的な参考としての情報であり、読者が医学知識を増やすための自習の助けになるものであり、それを越えるものではありません。
また、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに書かれてあるサプリメントを摂ったり、治療法を行い、症状が悪化しても、いっさい責任はとれません。 インターネットにより、Dr.牧瀬のアドバイスを受けられたい方は、「ご相談フォーム」よりご相談下さい

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